前回「家を借りるには一体いくらかかるのか」と題し建物賃貸借契約を結ぶにあたり必要となる費用の項目・内容についてご説明いたしました。
新しい家に引っ越すためには現在住んでいる場所を解約して退去しなければなりません。その場合どのような手続きが必要で、費用はいくら位かかるのでしょうか。
解約通知
まずはまずは管理会社もしくは直接大家さんへ解約の申し入れをしなければなりません。借主からの解約申し入れは大抵の場合1ヶ月前だと思います。(まれに2ヶ月前という場合がある。)仮に本日11月17日に解約を申し入れた場合、最短の解約日は12月16日です。もちろん1ヶ月より長い期間の解約予告でも全く問題ありません。解約の場合解約日、退去後の連絡先、敷金を清算した後の返金先口座番号が絶対に必要となるため後で書面の提出を求められることになると思います。その場合でも最初に電話で申し入れをした日が解約の受付日になります。
一度申し入れた解約通知は取り消すことができる場合とできない場合があります。管理会社によって違いますので解約申し入れの際確認が必要です。
解約立会い
解約日と退去日は同じである必要はありません。11月17日に解約予告をした場合最短の解約日は12月16日で、そこまでの家賃は発生しますが、極端な話11月18日に退去しても特に問題はありません。
引っ越しが終わったら管理会社の担当と「解約立会い」をすることになります。部屋にキズや汚れはないか、それは故意・過失ではないか、通常クリーニングで落ちるか否かを借主と確認します。そのうえで鍵を返却します。
原状回復・敷金精算
退去が完了すると次の募集に備えてお部屋のリフォーム工事を実施しますが、この時借主がどこまで費用を負担するのかということについて、各地で習慣が異なっていてトラブルが頻発していました。この問題に関し平成10年3月に国土交通省よりガイドラインが出され、平成16年10月1日に東京都で「賃貸住宅紛争防止条例」が制定されました。業界ではこれを「東京ルール」と呼んでいて、重要事項説明書と併せて契約前に書面で説明しなければならないものとなっています。私が最初に賃貸住宅の営業に従事した平成19年頃は東京都と首都圏のそれ以外の地域では費用負担の基準が異なっていましたが、現在では神奈川・埼玉・千葉の各県も東京都の基準にのっとっているようです。
基本的な考え方としては「借主は故意・過失・善管注意義務違反・その他通常の使用を超えるような使用による損耗等を復旧する」と定めています。「賃借人が借りた当時の状態」に戻すというのではありません。
具体的には経年劣化・自然損耗・通常の使用による住宅の損耗等の復旧は貸主の費用負担で行い、借主は費用を負担しないものとされています。壁に貼ったポスターや絵画の跡、日照などの自然現象によるクロスの変色、テレビ・冷蔵庫の背面の電気ヤケ等が該当します。一方で借主の責めに帰すべき事由による損耗は借主負担です。
一方で貸主と借主は両者の合意により上記の原則と異なる特約を定めることができるとされています。「入居期間の長短に拘らず借主負担で室内クリーニングを実施する」というのはほぼすべての契約に於いて共通していると思います。私の過去事例では41.72㎡の2DKで37,800円、34㎡の1DKで28,080円、20.79㎡の1Kで27,000円(全て税込)でしたから㎡あたり1000円前後ということでしょう。
その他和室の関係した畳、襖、戸襖を電球や蛍光灯と同じく消耗品とみなし、張替費用を借主負担とする場合があります。これも私の過去事例では畳1枚4,860円、襖1枚3,240円、戸襖1枚3,240円でした。和室を洋室にリフォームしていても押入れはそのままという部屋もありますが、この場合も襖張替の費用が発生します。
このような通常損耗の原状回復について賃借人が負担する義務を負うことを「通常損耗補修特約」といい、①範囲を特定する②金額を明示する③暴利ではない、という3要素を満たしていれば法的問題はないようです。
以上の内容を踏まえて部屋の汚れ、キズ、破損等に関して貸主と借主の負担割合を決定し、それに基づき管理会社より退去時清算書が送られてきます。特に問題なければ原状回復の借主負担分が敷金から生産され、差額が指定口座に振り込まれます。ほとんどの場合敷金の範囲内で済みますが、敷金で清算できない場合は追加支払いが発生する場合もあります。
これで退去の手続きは完了です。
賃貸住宅を巡る状況としては貸主に厳しくなってきていると思います。退去があれば部屋を綺麗にしなければ次の人が入ってくれませんが、実態として発生する費用のかなりの部分が貸主負担となっているようです。せっかくお金をかけて綺麗にして次の人に入居してもらっても、半年以内の短期で退去されたらやってられないでしょうね。
借主は借地借家法で容易なことでは追い出されないよう守られています。それに加えて退去時には国交省のガイドラインでも守られているのです。賃貸住宅を巡る紛争では借主側が「自分たちは弱者である」と声高に主張するのが常ですが、私はそれに対して首をかしげざるを得ません。
◆セットで読みたい部屋を借りるのに必要な費用