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【書評】「七帝柔道記」関係者しか知らなかったほぼ寝技だけの柔道

日頃神社仏閣をまわって御朱印を頂いておりますが、御朱印と一緒に栞を頂けることがたびたびあります。

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最近はまとまった本を読む時間が増えて頂いた栞も大活躍していますが、その中から特に印象に残ったものについて当ブログでご紹介したいと思います。

 

初回は子安神社の桜限定御朱印を頂く際、2時間待ちの間ひたすら読み続けた増田俊也著「七帝柔道記」をご紹介します。

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これは七帝戦優勝を夢見て北海道大学でひたすら柔道に打ち込んだ増田氏の学生時代を描いた私小説です。登場する選手名がすべて実名のためてっきりドキュメンタリーだと思っていたのですが、架空の話も混ざっているそうです。そうすると小説の中に登場する増田俊也は作者である増田氏の分身ということでしょうか。

 

七帝というのは東大や京大、東北大といった7校の旧帝国大学のことです。これら7校の柔道部は毎年6月に七帝戦と呼ばれる大会を開催しているのです。名古屋の旭丘高校の柔道部員だった増田は名古屋大学の柔道部員と稽古をしたことがきっかけとなって七帝戦に憧れ、二浪の末北海道大学に合格して柔道部に入部します。

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七帝戦の特徴として通常の柔道と全く異なる、寝技を重視した独自のルールを導入していることにあります。

 

柔道のルールには「試合は立った状態で始める」と書かれ、「寝技に移行するのは以下の場合」ということで数項目列挙されています。そして反則として列挙された行為の一つに「寝技に引き込むこと」とあります。寝技に行くためには何か技を掛けて倒れなければならず、何もしないで引っ張り込むのは反則なのです。そして寝技の攻防になっても膠着状態になれば審判が「待て」をかけます。

 

七帝戦のルールでは引き込みが認められていて、そして一旦寝技に入ると「待て」がかかりません。そのため七帝戦の試合のほとんどは延々と寝技の攻防が続く、まるでデスマッチのような展開になります。オリンピックの柔道しか見たことの無い人にとっては恐らく目を丸くするような光景だと思います。

 

七帝戦は15人同士の勝ち抜き戦です。優勢勝ちはなく一本取らなければ引き分けです。チームが勝つためには抜くべきところで抜き、それ以外は引き分けるということが大切です。

 

増田が入部した時の北大柔道部は部員の減少と選手の小型化が進んでいて、そのため七帝戦でも最下位が続いていました。柔道部としては一番避けなければならない悪循環の中ということになり、一度ここにはまると抜け出すのは大変です。

この状況を打開するにはとにかく稽古しかないという事で部員たちは極限まで練習量を増やしていきます。七帝戦というのは勝っても新聞に載るような試合ではありません。そして将来柔道の専門家になるわけでもないのに彼らは学生生活の全てを柔道に注ぎます。北海道の美しい自然の中で周囲の学生たちが楽しいキャンパスライフを謳歌しているにもかかわらず、ひたすら道場で寝技の乱取を続けるのです。

 

七帝ではありませんが私も学生時代似たような環境で柔道をしており、やはり独自のルールを作って毎年大会を開催していました。そのため「あるある」と思いながら読んでいました。新入部員へのお客様待遇がなくなる新歓合宿、何のために存在するのかわからない伝統の儀式、女性に対する苦手意識等々この時代の柔道部の様子がよく描かれていると思います。

 

七帝の柔道部員は「練習量が全てを決定する柔道」を信じて寝技の練習に取り組みます。そのレベルは高く、七帝戦で開発された技が世界選手権決勝で使われたこともあるくらいです。かつて京大が寝技を駆使して体重無差別の団体戦である全日本学生選手権でベスト16まで進出した時には新聞でも話題になりました。

寝技というものは数学の問題を解いていくことに似ていて、センスが必要な立ち技と違って練習しただけ強くなることができます。また立ち技にはまぐれ当たりがありますが寝技にはこれがほとんどありません。年に一度の大切な試合を確実に勝つため彼らは寝技を極めようと稽古を続けるのです。

 

実際の試合の場面では「抜く」「分ける」という言葉が頻出します。柔道の勝ち抜き戦においては勝ってポイントを獲得することと同じくらい引き分けて相手にポイントをやらないということが重要になります。自分より実力が上の相手に対し、たとえ勝つことは無理であっても頑張れば引き分けることならできるかもしれません。そのため普段は目立たないような選手でも相手のポイントゲッターを引き分けて止めることができれば大ヒーローになります。しかしこれは逆に恐ろしいことでもあるのです。

明らかに格上の相手と対戦する場合、通常かけられる言葉は「負けてもいいから思い切ってやってこい」というものだと思います。しかしこの世界で言われるのは「命がけで引き分けてこい」というものです。これは私も経験ありますが、言われると背筋がぞくぞくします。

 

1年目の七帝戦で出番を前にした増田は主将から声を掛けられます。「お前、俺たちのために死ねるか」「本当に死ぬ気で行けよ。そうしたら絶対に分けられる」「俺の期待を裏切るな」

増田氏がいた世界でも私がいた世界でもこの精神は今でも残っていると思います。伝統という訳がわからないものが持つ影響力の大きさを感じます。現在のような世の中でもこのような世界がまだ残っているのです。

一部の関係者しか知らなかった世界を幅広い層に圧倒的な共感とともに伝えたことがこの本のすごいところです。ただ共感できても部外者にこの世界が本当に理解できるかなと思います。

 

小説としての七帝柔道記は増田が2年生の時の七帝戦で終了しています。その後北大柔道部がどのようになったか私はよくわかっています。増田が膝の靭帯を切って入院した時に知り合った看護婦の市原慶子との関係がどうなったか、それだけが気になります。

 

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